あれから何日か経った。
神社には訪れづらくて行っていない。
宗司さんのことを思い出し胸が苦しくなる。
でも、このまま塞ぎ込んでいるんじゃだめだ。
私は神社を訪れることにした。
しゃらんしゃらん。
簪は寂しげに鳴る。
石段を登るとそこには人がいた。
少し期待してしまったけど宗司さんではなかった。
「……こんにちは」
後ろ姿に元気なく挨拶すると、その人は振り返り挨拶をした。
「こんにちは!」
顔を見るとわたあめのお兄さんだった。
「!?」
私は我が目を疑った。
「あれ? きみ、オレと会ったことある? んなわけないか。いやいや、ナンパみたいなこと言ってごめんね!」
「い……いえ……」
「ここ少し寂しいけどいいところだね。……オレなんか夢見てた気がするんだ。ここで毎日楽しく祭りやって……そうそう!わたあめ売ってたかなぁ……」
青年は赤いピアスを光らせながら言う。
「なんだか初めて来たけど、ここには大切な思い出がある気がするんだよなぁ……」
すると石段から足音がし、
「お父さん!早く早く!」
「待ってくれ!おれはお前のように若くはないんだ」
と声がし振り向くと、りんご飴のお姉さんと射的屋のおじさんがいた。
私はまた驚いた。
「こんにちは」
挨拶をする。
「おお、こんにちは!」
「こんにちは、嬢ちゃん」
お姉さんは陽気に、おじさんは気前の良さを感じさせる雰囲気で挨拶を返す。
「間違いない。ここでお祭りをしている夢を見たんだ」
「初めてきたが、初めてって感じがしないねぇ」
「! あんたたちもか!」
りんご飴のお姉さんと射的屋のおじさんとわたあめのお兄さんは意気投合する。
そのとき森の茂みから狐が三匹出てきた。
「きゅきゅぅ」
狐は鳴きながら私の前に来た。
「あらかわいい狐だねー」
りんご飴のお姉さんが人懐っこく尻尾振った狐の頭をなでる。
「きゅっきゅきゅい!」
狐はとても喜んでいる。
「おい! こっちのちょっと大き目な狐も可愛いぞ! こいつちょっとがっしりしててがたいいいな!」
わたあめのお兄さんががたいのいい狐を抱え上げる。
「おれはこっちの小柄な狐のほうがかわいいと思うけどなぁ……」
射的屋のおじさんががたいのいい狐に隠れるようにしていた小柄な狐に手を差し伸べる。
「どの狐も可愛いじゃないの!素直でいい子!」
りんご飴のお姉さんは言う。
狐たちに夢中になっていると石段を登る音が沢山聞こえる。
皆口々にここには楽しい思い出がある気がするんだ。祭りをしていたと言う。
「そうだ!いつかここで本当にお祭りをしよう!」
誰かがそういうとそれはいい提案だと皆同意した。
私はその光景に目を丸くし驚きつつもわくわくした。
私にも何かできないかな。
ふと足元にふわふわした感触がし見ると狐たちがいた。
狐たちは私にすり寄るとやがて仲良く三匹で森の茂みへと帰って行った。
もしかしてあの狐たちは――。
私は神社の鈴を鳴らした。
どうか神社にこれからも人が沢山きますように。
それと――宗司さんにもう一度会えますように――。
私は一礼をする。
願い聞き届けましたよ、と宗司さんの声が聞こえたような気がした。
第七話 稲荷神社/狐火の祭