第二話 昼間の神社/狐火の祭
 ――彼はいったい何者だったのだろう。
 なぜ私を助けてくれたのだろう。
 なぜ月のない夜には来てはいけないと言ったのだろう。
 あれから数日経ったにも拘わらず頭の中は彼のことでいっぱいだった。
 またあの微笑みに会いたい。彼のことを知りたい。
 いつからかそう思うようになっていた。

 その日私はいつものように昼間神社を訪れた。
 神社でぼんやり考え事をすることが私の日課だ。
 ただ今はそれだけじゃない。そこに行けば彼にまた会える。そんな気がしたから。
 風に揺れる木々のさえずりを聞きながら石段を一段一段踏みしめる。
 鳥居をくぐると、神社の鈴の前に人影がいるのが見えた。
 
「……あれ? こんなところに人がいる……」
 何でもない日に人がいるのは初めて見た。
 目を凝らすとその人はお祭りで私を助けてくれた青年だった。
 私は驚きつつも嬉しくなり声をかけようとする。
 しかし、彼の背中はとても寂しそうだった。
 私はそっと近づき声をかけた。
「こんにちは。先日はありがとうございました」
 彼の肩がピクリと跳ねたあと、こちらを振り返りわずかに目を見開き、やがて柔らかな笑みを浮かべた。
「おや、あなたですか。こんにちは」
「……あの、何かあったんですか?」
「……え?」
 彼が目を丸くする。
「少し背中が寂しそうに見えたので……私でよければ力になりたいです」
「……何もありませんよ。ありがとうございます」
 彼は静かに笑みを浮かべた。
「……ところで、お名前を教えて頂けますか。ここでまた会ったのも何かの縁ですし……」
 私はおずおずと聞いた。彼のことをもっと知りたい。
「私は御神宗司(みかみそうじ)です。あなたのお名前は?」
「月島あかりです」
「あかり……。良い名ですね」
「あ……ありがとうございます」
 私は少し照れた。面と向かって名前を褒められたのは初めてだ。
「……そうです。明日一緒にお祭りに行きませんか? 満月のお祭りはとても良いですよ」
「え!? いいんですか?」
「はい。私はあなたとお祭りに行きたいのです」
「嬉しいです! 是非一緒に行きたいです!」
 思ってもみない申し出に私は素直に喜んだ。
「……でもなんで私を誘ってくれるんですか? この前もなんで私に親切にしてくれたんですか……?」
 疑問に思っていたことがふと口をつく。
 彼はわざと意地悪な笑みを作り、
「おや?助けられるのは嫌でしたか?」
 私は首を横に思い切り振った。もうあんな思いはしたくない。
「戯れです。困っているあなたを放っておけなかったからです」
 宗司さんはふふ、と笑ったあと答える。
「それに祭りに誘うのはあなたに満月のお祭りを見せたいからです。きっとあなたは満月のお祭りを好きになる」
 宗司さんが目を細める。
「改めて伺いますが、私と満月のお祭りに行っていただけますか?」
 彼が優雅に手を差し出す。
「はい! 勿論です!」
 私は少し骨ばった白く美しい手をとった。